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猛暑において生活保護利用者の命を守る措置を講じる等生活保護制度の改善を求める意見書を発出いたしました

2024.10.02

猛暑において生活保護利用者の命を守る措置を講じる等生活保護制度の改善を求める意見書

全国青年司法書士協議会
会 長  坂田 亮平

 気候変動等の影響により近年では夏に猛暑日が続くようになった。今年の夏も記録的な猛暑と言われ、各地で気温が40度に迫るなど、命に関わるような気候が続く中、生活保護利用者が冷房を使用することができないなど十分に対策が出来ない状態にある。
 また、2022年から続く物価等の高騰は市民の生活を圧迫する一方である。
 当協議会は、毎年、電話による「全国一斉生活保護相談会」を開催するとともに、毎週1回「生活保護相談ダイヤル」を常設しているが、利用者の方から生活に苦しむ声が寄せられている。

 それらを踏まえて、次のとおり意見を申し述べる。

1.猛暑において利用者の命を守るための措置を講じること
 厚生労働省によると、2022年の熱中症による死者は1,477人に上っており、その9割近くが65歳以上である。
 国立環境研究所の研究では、真夏にエアコンの利いた部屋で過ごすことで、熱中症や暑さによる持病の悪化などで亡くなる人を3割以上減らせるとの結果が出ている。
 環境省においてはHPにて「熱中症警戒アラート(熱中症警戒情報)」や「熱中症特別警戒アラート(熱中症特別警戒情報)」の情報提供を行っており、「気温が著しく高くなることにより熱中症による人の健康に係る被害が生ずるおそれがあるので、(中略)室内等のエアコン等により涼しい環境にて過ごしましょう。」「広域的に過去に例のない危険な暑さ等となり、人の健康に係る重大な被害が生じるおそれがあります!!(中略)熱中症にかかりやすい方が室内等のエアコン等により涼しい環境で過ごせているか確認してください。」などの呼びかけがなされている。

 しかし、そのようなデータや呼びかけも、生活保護利用者をはじめとする生活困窮者にとっては対策を取りようがなく意味をなさないものである。

 生活保護の運用では、2016年から家具什器費としてエアコン購入費が支給されると変更されたが、要件としては、保護開始時や転居時等にエアコンの持ち合わせがなく、世帯員の中に熱中症予防が特に必要な者がいる場合に限定されてしまっている。
 手持ちのエアコンが壊れた場合などは、熱中症で救急搬送されたり、医師の意見書があったりしても、購入費が支給されるわけではなく、故障に備えて生活保護費を貯蓄して自弁すべき、と言われている。
 しかし、物価等が高騰し、生活保護費が引き下げられる昨今において、そのようなことが可能であろうか。利用者には食事すら満足に取れない方も多く、生活保護を利用していながらフードバンクや炊き出しの列に並ぶという異常な状況である。
 社会福祉協議会から生活福祉資金貸付を受けることもできるが、とても保護費から返せる見込みがないと諦める方も少なくない。また、エアコンがあっても、電気代を支払うことができないと使用を控える方も非常に多い。

 こういった事情から、エアコンを使うことなく健康を害したり持病が悪化したり、最悪の場合命を落としてしまう利用者もいるのではないかと想像する。
 利用者の大半は高齢者世帯と傷病・障害者世帯であることを考えると、経済的理由によってエアコンが使用できないような状況を見過ごすということは、不作為により国家が市民を見殺しにしているとさえいえる。まさに憲法第25条に規定される生存権の侵害が起こっているのである。

 生活保護法が成立した1950年の東京都における8月の最高気温平均は30.4℃である。それが2023年には34.3℃まで上昇し、エアコンの必要性も大幅に増加している。
 エアコン購入費の支給要件を緩和し、開始時や転居時に限らず必要とする人にもれなく支給されるとともに、冬季加算に加えて夏季加算の創設を求めるものである。

2.生活保護基準を物価スライド方式とし、速やかに基準額の引上げを行うこと
 そもそも、生活保護基準が著しく低いことも問題である。
 生活保護基準は、「健康で文化的な最低限度の生活」という憲法第25条の規定に基づき、実際の額は厚生労働大臣が定めるものである。
 制度開始以来、その額は決して大きいものではなかったが、2013年以降、2回の引き下げが行われ、利用者の生活は苦しいものとなり、それに加えて2021年秋からの物価高騰が起こったことで、さらに困窮することになった。

 当協議会が毎年開催する「全国一斉生活保護相談会」にも、保護費の金額についての相談が多く寄せられ、2023年度開催の相談会では、保護利用ありの方からの相談77件中29件と約4割が保護費の金額についての相談であった。
 また、2023年4月より全国で開催されている「いのちと暮らしを守るなんでも相談会」(主催:いのちと暮らしを守るなんでも相談会実行委員会)には、当協議会の会員も多く参加しているが、当該相談会においても、下記のような利用者からの悲痛な声が寄せられている。

「70歳になってから、保護費が5,000円程度下げられた。以前はそれでも外食で牛丼くらい食べられたが今はそれもできない。1日2食。クーラーはあるが、昨年は1度も使わず、濡れタオルを身体にかけてベッドで寝て暑さをしのぐ」(年齢性別不明)
「収入は年金と生活保護。生活保護費が低すぎる。普段は扇風機もつけずに我慢し、1日1食、安いせんべいを水に浸して食べている。夫はレタスが噛めないほど衰弱している。」(80代夫婦)
「生活保護を利用しているが、物価高でまともに食事も取ることができていない。水道・光熱費を2か月分滞納している。水道局・電気会社に延納措置をお願いしているが、今後支払いが滞った場合、水道を停めると言われている。月の食費は1万5千円でおさめている。病気を持っているため食事に気をつけなければいけないのだが、献立はお粥などに限られ、量も少ないため、毎日白湯やお茶を飲んで空腹を凌いでいる。毎日暑い日が続くが、電気代節約のためエアコンはなるべくつけないようにしている」(80代女性)

 2013年から2015年にかけての引き下げは最大10%という前例のないものであり、それが国の恣意的な算定方法によるものだとして、全国各地で裁判が起こされ、行政訴訟としては異例の国が敗訴する判決が相次いでいる。2023年11月の名古屋高裁判決は控訴審での勝訴判決であり、これまで認められなかった国家賠償請求まで認容された画期的な判決であった。
 この引き下げの際には物価が下落したことが根拠とされたが、それならば現在のように物価高騰が著しく、食事にさえ影響するような事態が起こっている場合には基準額を引き上げるべきであるにも関わらず、国は十分な対策を講じようとしない。
 生活保護制度は国民年金同様、物価スライド式とし、速やかに基準額の引き上げを行うべきである。

3.生活保護制度を利用しやすいものに改善すること
 また、生活保護は旧来の運用等により利用しにくい制度となってしまっている。
 生活保護の利用には、自動車保有の原則禁止、親族への扶養照会の強要、リバースモーゲージの利用強要、大学等へ進学すると生活保護から外れる等の様々な制限があり、さらに利用することに対するスティグマ感により、利用をためらったり諦めてしまう方も多数存在する。
 ケースワーカーの資質に問題があるケースも散見され、一度利用したことのある方の中には、ケースワーカーから高圧的な態度を取られたことを理由に二度と利用したくないと言う方もいる。
 我が国の生活保護の捕捉率は2割程度と言われているが、最低生活費以下の生活を送っているにもかかわらず、生活保護を利用しない方が多く存在する背景には、前述のような問題があると考える。

 国は、生活保護は国民の権利であることを周知徹底し、年金が生活保護基準以下の方や住民税非課税世帯への行政からの通知文書には生活保護申請書を同封するよう指導するなど、生活保護利用促進に力を入れるとともに、旧来の運用を改善するなど利用しやすい柔軟な制度へと抜本的に改革するよう求めるものである。