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「特定複合観光施設区域整備法に基づくカジノ施設の設置についてあらためて反対する会長声明」を発出いたしました。

2023.06.20

特定複合観光施設区域整備法に基づくカジノ施設の設置について
あらためて反対する会長声明

                               

2023年 6⽉20⽇
全国⻘年司法書⼠協議会
会 ⻑  荘原 直輝

 2023年4月14日、国土交通省観光庁は、大阪府および大阪IR株式会社から申請がなされていた「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」(以下、「本計画」という。)を、特定複合観光施設区域整備法(以下、「カジノ実施法」という。)第9条第11項の規定に基づき認定した。
 全国青年司法書士協議会(以下、「当協議会」という。)は、ギャンブル等依存症患者や、ギャンブルを理由とした借り入れから多重債務状態に陥り、家庭の崩壊、返済のための犯罪行為、そして最悪の結果として自死にまで追い込まれた市民の方々を目の当たりにし、そのような方々への生活再建の一助になるべく長年活動を続けてきた。その立場から、過去に2度〔ⅰ〕、カジノ解禁について断固反対する会長声明を発出したほか、2021年5月、「カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則案」についての意見募集においても、カジノ施設の設置について反対の立場から意見表明〔ⅱ〕を行ってきた。
 また、当協議会のほかにも多くの法律家団体、消費者団体、市民団体などが、カジノ施設の設置について反対を表明している。
 このような現状にもかかわらず、依存症対策に関する具体的施策が不十分で、なおかつ当事者であるカジノ事業者に委ねるような形のまま、わが国にとって初めてとなるカジノ施設の設置計画が認定されたことに対して、深く失望すると同時に、政府の依存症対策やギャンブルを起因とした多重債務問題への取り組み姿勢について疑念を抱かざるをえない。
 具体的には、国内におけるカジノ設置・運営に関する必要な規制・措置の基礎となるカジノ実施法では、ギャンブル依存防止のための措置(入場制限など)を一応は設けているが、例えば施設入場料は6,000円と、若年層も含めて手の届きやすい金額設定となっており、入場回数についても7日間に3回、また28日間に10回と、必ずしもギャンブルに興じる人達にとって抑制的な回数とは言い切れない設定となっている。
 入場制限については、カジノ実施法第68条において、カジノ行為に対する依存についての悪影響を防止するため、入場者またはその家族その他の関係者の申出あるいはカジノ事業者自らがカジノ施設の利用を制限する措置を行うことが求められているが、本計画においては「利用制限措置として、排除プログラム制度(中略)を構築の上、適切に講じる」と記載があるのみで、実際にどのようにして実効性のある制限措置を取っていくのか不明である。
 日本に先駆けて国外でカジノ施設を設置しているシンガポールを例に見ると、カジノ事業者自身ではなく、第三者機関である「国家賭博問題対策協議会(NCPG)」が「入場排除プログラム」に基づき、本人や家族の申し出のみならず別途定めた基準によって、第三者機関自らが入場制限を行うことを可能としており、日本でも少なくともシンガポールと同レベル以上の対策が求められる。
また、カジノ実施法第76条以下において「特定資金貸付業務」と呼ばれる、カジノ事業者自らが、その裁量によってカジノを興じるための資金を貸し付ける制度が規定されている。特定資金貸付業務は貸金業法の射程外となっており、いわゆる「総量規制」に縛られず、また利息こそ無利息ではあるものの、貸付期間2か月という短期間の中で、弁済日を徒過すれば年利14.6%という極めて高い遅延損害金が債務者に課されることとなり、まさにギャンブル等依存症対策とは逆行した制度である。この点、本計画において、カジノ実施法及び関連規則の規制以外の具体的貸付抑制策などは提示されておらず、多重債務問題の惹起が強く懸念される。
 他にも、カジノ利用者をターゲットとした(新型)ヤミ金業者が増加することや、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画審査結果報告書」中の「カジノ施設の有害影響排除等」において指摘があるように、カジノ施設内での飲酒が認められていることから、アルコール摂取を伴った状態でギャンブルに興じることが、多重債務問題においてより一層の被害拡大に繋がることが懸念される。
 なお、「審査結果報告書」では、ギャンブルに用いられる電子ゲーム機(EGM)についてより依存性が高い可能性についても触れており、行政及びIR事業者は、それについて具体的な対策を何も検討していないことも覗える。
 そもそも本計画の審査結果だが、評価基準25「カジノ施設の有害影響排除等」において、評価点数は150点中90点、つまり6割しか獲得しておらず、評価基準項目25項目の中で低い評価点率(25項目中20位)となっている。このことは、IR事業者がギャンブル等依存症対策よりも、他の項目を優先して取り組んでいることを示唆している。ギャンブル等依存症対策等の有害影響排除策が万全に講じられているとは言えない中で、本来は社会の風俗を害するとして刑法上の賭博罪にあたるカジノ行為を解禁することは、看過できない重大な欠陥があると言える。
 よって、当協議会は、あらためてカジノ施設の設置について断固反対の立場を表明するとともに、政府においては、他のIR計画も含めた今後のカジノ施設設置計画の認定および審査において、依存症対策・多重債務問題防止の視点をもって、「設置ありき」ではない極めて慎重かつ抑制的な態度で臨むよう求めるものである。                       

                                          以上

[ⅰ] 2016年12月5日発出「カジノ解禁法案に反対する会長声明」、2018年6月29日発出「特定複合観光施設区域整備法案(いわゆるカジノ実施法案)の廃案を求める会長声明」

[ⅱ] 2021年5月8日発出「カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則案」に対する意見について