2021年2月22日
全国青年司法書士協議会
会長 川上真吾
消費者庁は、規制改革推進会議第3回成長戦略ワーキング・グループにて取りあげられた、特定商取引法の特定継続的役務提供における交付書面の電子化について、デジタル化を許容する方向で適切に検討を進めると回答した。そのうえ、同会議において課題として取りあげられていない訪問販売や連鎖版売取引等においても、一律に交付書面の電子化を認めようとしている。
消費者庁は、消費者の事前の承諾があれば契約書面等の電子化を認めても不利にはならないと考えているようであるが、特定商取引法が対象とする取引は、通常の商取引と異なり、自ら求めない突然の勧誘を受ける取引や、ビジネスに不慣れな消費者を勧誘する取引であり、消費者が受動的な立場に置かれ、契約締結の意思形成においては販売事業者の言葉に左右される面が強い。昨今、大学生などの若年者や高齢者の判断力・交渉力不足に付け入る悪質な手口も多く、事業者側に有利なかたちで消費者の意思形成が誘導され、消費者被害が生じている事実がある。消費者が、電磁的交付について十分な知識を持ち、積極的な承諾の意思表示を行い得る環境であるとは言い難いと考えられるところ、電磁的交付の可否についての検討に当たっては、その実現が可能なような環境が整っているのか、十分かつ慎重な実態把握が必要である。
また、電磁的交付においては、例えば、送受信時期を偽ることや、受信機器の故障、交付書面の改ざんなど、書面の交付時期やその内容をめぐるさらなる消費者トラブルを惹起する危険性もあると考えられるところ、その可否については、情報の正確な保存が担保されるような措置が講じられなければ、消費者が安心してこれに同意できるものではないはずである。
2011年1月20日に開催された、「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部第5回情報通信技術利活用のための規制・制度改革に関する専門調査会」において資料として提出された「各省庁に対する書面調査結果」には、契約書面等の電磁的交付の可否に対する消費者庁の回答として「消費者保護の観点からも十分要件を満たすものか不明なため、電磁的交付の可否の判断は困難である」との見解が示されているが、消費者庁は、この度これを変更するに至った経緯や理由について全く説明しておらず、何故電磁的交付を許容できるようになったのか判然としない。もし、消費者庁が、消費者取引の安全よりも、事業者の利便性や、政府の推進する制度改革の実現を優先すべきと考えているのであれば、それは消費者保護を主務とする役割を放棄するものである。
特定商取引法における書面交付義務の電子化は、電子化によるメリットだけでなく、消費者被害の実態や書面交付による被害防止機能の確保などを含めて慎重に検討することが不可欠である。当協議会は、このような議論がないまま、拙速に電子化の結論を出すことに強く反対する。
意見書本文は下記よりご覧ください。
特定商取引法における契約書面等の拙速な電子化に反対する意見書 はこちらから。