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民事判決情報データベース化検討会報告書案への意見書を提出いたしました。

2024.05.13

民事判決情報データベース化検討会報告書案への意見書                     

2024年 5月10日
全国青年司法書士協議会
会長 坂田亮平

  当協議会は、以下に対し、意見書を提出いたしました。
 出典:民事判決情報データベース化検討会報告書(素案)」に関する意見募集
   (e-Govパブリックコメント)

 民事裁判情報を広く国民に提供することにより、司法の透明性の向上、行動規範や紛争解決指針の提示、新規産業の創出や高度な法的サービスの提供、裁判情報全体の横断的分析やより精緻な統計分析が可能となることは想像に難くない。
 民事裁判情報をデータベース化することにより、数多くの民事裁判情報の中から、実務上参考としうるものを容易に検索することができるようになると考えられることからも、報告書案の全体的な方向性については賛成する。
 一方で、個人を特定しうる情報がインターネット上で公開され、一度個人情報が拡散されてしまうと、完全に削除するのが不可能であることから、訴訟関係者に回復できない損害が生じることが想定される。
 また、公開された民事裁判情報を利用し、所謂「破産者マップ」を模倣したインターネットサイトが出現することも予想されるところである。現在の破産者マップは、従来存在していたものと比較して、より狡猾かつ醜悪であり、破産したという事実を秘匿したいという市民の心理を利用し、情報削除の見返りに金銭的要求をするものであり、極めて悪質であると考えている。
 プライバシー保護の観点からも、法律実務家は、周知されたくない事象を積極的に拡散する者がいること、そしてその事実により、情報を開示された市民が、今も大きな不安を抱えて生活しているという現実から目を背けてはならないと考えていることから 、以下の通り、各項目につき、意見を述べる。

≪意見の対象となる項目≫
第5 基幹データベースを整備するための制度の在り方
1 情報管理機関による民事裁判情報の取得の在り方
(2)訴訟関係者の権利利益に格別の配慮を要すると思われる事案について

≪意見の趣旨≫
 民事訴訟法第133条及び第133条の2による住所・氏名等秘匿制度の決定が行われた事件については、基幹データベース収録の対象外とするべきである。

≪意見の理由 ≫
 訴訟当事者は、自己の権利実現・被害救済の手段として、訴訟手続を利用することが多く、犯罪やDV、児童虐待等の被害者においては、訴訟手続自体も、自己の居所等を知られる端緒となる可能性もある。
 令和5年2月より、民事訴訟法における、住所・氏名等秘匿制度(以下「秘匿制度」という。)が施行された(改正民事訴訟法第133条及び第133条の2)が、素案によれば、秘匿制度を利用した事案についても、基幹データベースに取り込み、情報管理機関の調査研究の対象となり得るという方針が示されている。
 秘匿制度が利用される事件は、犯罪やDV、児童虐待等、事件内容がセンシティブであり、かつ、加害者に居所等を知られることにより当事者の生命・身体に危険がおよび、精神的にも重大な影響をもたらすことが予見される。
 また、推知情報等により、いかなる他者にも知られたくない自己のセンシティブな情報を、自らが意図しない形で他者に知られることも考えられ、当事者が重大な精神的苦痛を感じることもありうる。
「自己の訴訟事案がどのような形で利用されるのか」
「情報管理機関にはどのような人が携わるのか」
「基幹データベースに取り込まれた情報は漏洩のおそれはないのか」
 といった懸念が払しょくされない状況で、基幹データベースに収録されるということになれば、秘匿制度利用者は事件解決後においても、上記のような様々な不安を抱えながら生活を送らざるを得ない。
 秘匿制度は、いかなる他者に対しても自己の個人情報を開示することができない正当な理由のある訴訟当事者のためにある制度であり、その制度趣旨からみても、秘匿制度を利用した民事事件の判決情報を、情報管理機関が取得することは相当でない。
 よって、秘匿制度を利用した民事事件については、基幹データベース収録の対象外とするべきである。

≪意見の対象となる項目≫
第5 基幹データベースを整備するための制度の在り方
2 適切な仮名処理の在り方
(3)特定の個人を識別することができる情報等(前記(1)の情報)について

≪意見の要旨≫
 訴訟代理人氏名の仮名化を不要とすることに賛成する。
 ただし、運用に際しては、プライバシーの問題や訴訟代理人への権利侵害といったリスクを考慮し、柔軟な事後的措置等の運用を求める。

≪意見の理由≫
 司法書士法第1条には、「司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。」旨の規定(使命規定)が置かれている。同規定により、司法書士が我が国における法律事務の専門家として課せられている職責が明確にされている。
 このことから、法律実務家が仮名化処理を求めることは相当とはいえないと考えられるが、本項目については、以下に挙げる理由により、訴訟代理人の氏名公表についてリスクが存することを考慮する必要がある。
 まず、訴訟代理人自身のプライバシーの問題がある。たとえば、司法書士には、司法書士法第20条の規定により、事務所設置義務が課されている。自宅と同一の住所に事務所を構えている者も少なくないことから、代理人氏名の公表により、訴訟代理人本人またはその家族に対しプライバシー侵害のリスクが及ぶおそれがある。
 また、訴訟代理人への権利侵害という問題も考えられる。 現代社会においては、インターネットやSNS等により、マスメディアや個人から発せられた情報の拡散が早く、当事者が受ける影響が大きくなっている。実際、近年では、意図的に切り取られた情報が、SNS等を通じて本来の意図や解釈とは違った形で拡散され、当事者が命を絶つといった痛ましい事件も発生している。
 このような前提を踏まえ、訴訟代理人の氏名の仮名化処理について検討すると、元々「負け筋」であることを前提に依頼者から事件を受任した場合において、依頼者が敗訴した場合、依頼者とその代理人は、その結果に納得していたとしても、利活用の際には、敗訴事件としてカウントされ、当該訴訟代理人が風評被害を受けるリスクがあることはもちろんのこと、SNS等を通じて、一般の市民に誤った認識を拡散されるリスクもあると考えられる。
 以上のことから、訴訟代理人の氏名の仮名化を不要とする方針について反対するものではないが、運用にあたっては、訴訟代理人のプライバシーの保護が必要な場合においては、柔軟な対応を可能とすべきである 。

≪意見の対象となる項目≫
第5 基幹データベースを整備するための制度の在り方
2 適切な仮名処理の在り方
(5)法人の名称等について

≪意見の要旨≫
 法人の名称等について仮名化処理を不要とすることに賛成である。
 ただし、法人の名称等の公開に伴い個人が特定され、個人のプライバシーが侵害される場面が起こった場合 、制度開始後の法人の名称等の仮名化処理を可能とする 柔軟な事後的対応を行うべきである。

≪意見の理由≫
 法人については、個人と同様のプライバシーが観念できないことに異論はない。
 一方で、法人の登記事項証明書等には代表者あるいは役員の住所氏名といった個人のプライバシーとして本来保護されるべき情報が記載されているため、民事判決情報データベースで公開される法人の名称等それ自体では直ちに個人を特定するには至らずとも、法人の登記事項証明書等の取得と紐づける事で特定の個人として識別しうる情報が取得されるリスクが存在する。
 令和4年9月1日施行の商業登記規則等の一部を改正する省令(令和4年法務省令第34号)及び商業登記規則及び電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和4年法務省令第35号)により、DV被害者等である会社代表者等からの申出により、登記事項証明書等におけるDV被害者等の住所を非表示とすることが可能となっていることからも、法人の名称等を登記事項証明書等の情報と紐づける事で特定の個人として識別しうる情報となり得ることは明らかである。
 他方、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)によって創設された令和6年10月1日から施行予定の代表取締役等住所非表示措置(商業登記規則第三十一条の三)制度では、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合、登記事項証明書等において代表取締役等の住所は最小行政区画までしか表示されないとされている。
 ただし、この代表取締役等住所非表示措置の申出は、設立の登記や代表取締役等の就任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時にする場合に限り代表取締役等の住所を非表示にできる制度である。
 そのため、登記事項に変更が生じない限り、措置を申出ることができないうえに、申出には一定の手続きを要するため、代表者等の住所は依然として登記事項証明書等には記載される状態となることから、法人の名称等の公開に紐づく個人の特定リスクが依然として存在する。
 ただし、法人の名称等が仮名化されないことにより、消費者事件の解決や消費者問題の予防に資することが期待され、消費者保護の立場からは法人の名称等が公開されることはむしろ望ましいとも考えられ、国民生活センターが個別の事業者の名称を公表しうるとする、独立行政法人国民生活センター法施行規則第36条の趣旨はまさに、この考え方と一致するものである。
 また、法人の名称等について仮名化処理で保護すべき法人とそうでない法人を事前に線引きする事は困難であるため、法人の名称等については全て公開するか全て仮名化するかの二択にならざるを得ないと考えられるが、制度開始前の現時点で、法人の名称等について全て仮名化しなければならないという積極的な理由は見つからない。
 民事判決情報データベースを運用する上で、法人の名称等の公開によって得られる利益と不利益を改めて検証し、法人の名称等の公開の結果、個人のプライバシーが侵害される事態が起きた場合においては、法人の名称等の仮名化処理を可能にする 柔軟な事後的対応を行うべきである。

≪意見の対象となる項目≫
3 民事裁判情報の提供や利活用の在り方
(3)訴訟関係者の同意を取得する必要はないことについて

≪意見の要旨≫
 事件番号等が判明する民事判決情報にオンライン上で広くアクセスできるようになり、かつ、民事訴訟記録のある裁判所以外の全国の裁判所の端末から電磁的訴訟記録を閲覧できるという状況が生じることが想定される場合は、反対する。この場合、訴訟関係者のプライバシー等の権利利益に配慮し、裁判所及び情報管理機関が、相互に連携し、協力を図りながら、訴訟提起の段階又は訴訟手続の中で訴訟関係者の同意を得るべきである。

≪意見の理由≫
 最高裁平成20年3月6日判決では、「憲法13条は、 国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される」と判示されている。
 訴訟関係者の主張や証拠等から裁判官が事実問題と法律問題の両方を判断する事実審においては、事実問題を判断する必要があることから、その民事裁判情報においても多くの事実が記載される。例えば、建物明渡請求訴訟であれば家賃の滞納状況、貸金返還請求訴訟や過払金返還請求訴訟であれば借入れの状況、不貞行為の慰謝料請求訴訟であれば不貞の状況、刑事事件の損害賠償請求訴訟であれば前科・前歴や犯罪被害情報、交通事故の損害賠償請求訴訟であれば給与の額、病歴(既往症)、通院歴等がある。それらは、訴訟関係者にとって第三者に開示又は公表されたくない情報であることは論を俟たない。
 公開された民事裁判情報の内容をもとに、裁判所で裁判所書記官に閲覧を申請し、仮名処理されていない電子的訴訟記録を閲覧することで、容易に個人を識別することが可能となる 場合には、訴訟関係者である個人の合理的期待に反してその私生活上の自由を脅かす危険が生じる可能性もあり、プライバシーリスクはかなり高いものとなるといえる。
 事件番号等が判明する民事判決情報のデータベースにオンライン上で広くアクセスできる運用がなされる場合は、情報管理機関が裁判所から民事裁判情報を取得、管理、利用者への提供に関する行為は、訴訟関係者に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものに該当する可能性は極めて高くなり、当該訴訟関係者がこれに同意していなければ、憲法13条により保障された上記の自由を侵害するものになる可能性が多分にあることから、情報管理機関による訴訟当事者の同意のない民事裁判情報の取得はすべきではない。

≪意見の対象となる項目≫
3 民事裁判情報の提供や利活用の在り方
(4)提供の在り方について

≪意見の要旨≫
 民事判決情報の提供の在り方について、方針に賛成する。ただし、情報管理機関は、民事裁判情報の不適切な利用が行われないよう、提供契約の締結にあたっては、悪用する恐れの高い個人や法人に 提供することのないよう、相当な手段により契約の相手方の調査を行うべきである。

≪意見の理由≫
 「破産者マップ」と称するサイトの運営者のように、第三者が、現時点では想像もつかないような方法により 、民事裁判情報を悪用する可能性は否定できないことに加え、一度インターネット上に掲載された情報については、完全に削除することが不可能であることから、情報管理機関においては、民事裁判情報の不適切な利用が行われないよう、提供契約の締結にあたっては、悪用する恐れの高い個人や法人に 提供することのないよう、恣意的な選別とならない相当な手段により契約の相手方の調査をすべきであると考える。