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インボイス制度に反対する会長声明を発出いたしました。

2023.08.17

インボイス制度に反対する会長声明

2023年 8月17日
全国青年司法書士協議会
会長 荘原 直輝

 当協議会は、長年にわたり生活困窮者支援や多重債務問題などに対し、市民の権利擁護の視点から積極的に取り組んできた。その立場から、現在も物価高騰等で苦しむ市民の生活にさらなる負担が生ずるおそれのある「適格請求書等保存方式」、通称「インボイス制度」に反対し、廃止を求める。理由は以下の通りである。

1.免税事業者に取引上の不利益が生じ、可処分所得を大きく減らすおそれがあること
 本年10月開始予定のインボイス制度は、適格請求書(インボイス)がなければ消費税の仕入税額控除が受けられない、という制度であり、消費税課税事業者は、仕入れ先・下請に対し、インボイスの発行を基本的に求めることになる。

 しかし、仕入先や下請が免税事業者であった場合、新たにインボイス発行をしようとすると、課税事業者になることを選択し、売上額に関係なく消費税を納税しなければならない。
 制度上は選択制であっても、小規模な免税事業者が取引先から登録を求められれば、取引停止等の不利益をおそれて登録を選択せざるを得ないというケースも多いと考えられる。 
 また、仮に登録をしないことを選択した場合には、消費税分が売上から差し引かれる、といった不利益も起こりうる。これらは免税事業者の可処分所得を大きく減らす要因となる。

 特に個人事業主・フリーランス(以下「個人事業主ら」という。)にとっては、インボイス制度導入の影響は大きいと考えられる。令和元年の調査によると、個人事業主らの主たる生計者としての年収(税引前)のうち70%近くが400万円未満となっている 。〔1〕
 これらの免税事業者を多く含む個人事業主らがインボイスを発行し、課税事業者になると消費税を納めることになる。これまでと同程度の売り上げがあったとしても、収入が大幅に減ることになり、生活困窮に陥る可能性があることが容易に想像される。

 そして、個人事業主らを多く抱える各業界からも、反対の声が上がっている。例えば、演劇、漫画、アニメ、声優の4業界団体は、「従事者の半数以上が年収300万円以下であり、インボイス制度によって従事者のうち2割が廃業を検討している」というアンケート結果を公表した。また、大手運送会社の下請ドライバー等で組織される「建交労軽貨物ユニオン」は、ドライバーのほとんどが個人事業主で、年間の平均売上は約360万円、税引前所得が約200万円であり、特にコロナ禍で仕事を失ったサラリーマンやタクシードライバーが個人事業主として多数業界参入した事実も報告している。
 これら各業界の従事者は、取引上の立場が弱く、「(インボイスの)登録をしないと、今後の契約は約束できない」「制度が始まったら、これまでお願いしていた仕事を継続するのが難しくなる」「発行事業者にならないと、その分報酬を値引きする」「課税事業者になっても請負金額は据え置きにする」などとクライアントや元請から通知された事例もあることが各業界団体から報告されている。

 一方、インボイス制度導入に際し、財務省は激変緩和措置を設けることとし、さらに、公正取引委員会においては、Q&Aを作成し、「免税事業者に対し『課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げる』『それに応じなければ取引を打ち切る』などと一方的に通告することは、独占禁止法や下請法上、問題となるおそれがある」との考え方を示している。
 しかし、日本たばこ産業(JT)が全国の葉タバコ農家に対し、「インボイス登録をしない免税農家には、消費税額分を除いた税抜き価格で支払う」と説明した事実が報告されている。
 財務大臣が監督権限を持つJTですらこのような対応を行っていることから、他の企業について同じような事例が存在しないと言い切れるだろうか。

 本来、税制は納税義務者である国民にとってわかりやすい制度であることが求められるところ、インボイス制度は制度設計が大変複雑で容易に理解できるものではない。免税事業者の中にはよく理解ができないまま登録をし、後に思いがけない税負担に苦しむ者が現れることは想像に難くない。制度開始日が迫っているが、制度内容の周知は不十分であると言わざるを得ない。
 このような状況下で制度が開始すれば、少なくない数の事業者が消費税によって生活苦に陥ることになるものと考えられる。
 
2.事業者の負担が消費者や労働者に転嫁されるおそれがあること
 前記1では免税事業者の取引上の不利益を述べたが、仮に仕入業者が免税事業者に配慮して消費税負担を転嫁しなかった場合、その負担は仕入業者が負うことになる。しかし、仕入業者が、販売価格の値上げや人件費削減といった、別の形でその負担を転嫁することも考えられる。
 実際に電気料金については、インボイス制度の導入により電力会社などに生じる損失を、一般家庭の電気料金の値上げで賄う方針が資源エネルギー庁から示されている。
 また、「建交労軽貨物ユニオン」は、2024年にトラックドライバーの時間外労働時間が制限される、いわゆる「物流の2024年問題」が控える中でインボイス制度が開始すれば、当該問題に加えてドライバーの廃業が相次ぎ、物流が大混乱に陥るおそれを指摘している。当然運送費の上昇にもつながることと考えられ、ひいては物価にも影響を与えることとなる。

 このような事象が多発すると、物価が高騰するおそれがあり、ワーキングプアの原因ともなりかねない。
 わが国では、一昨年からの物価や光熱費の高騰により、特に低・無年金の高齢者や生活保護受給者、ひとり親世帯等低所得者層の生活は非常に苦しいものとなっている。当協議会の電話相談においても、生活に困窮し、食費を削る、冷暖房の使用を控えるなど、時に相談者の生命や身体が危機的な状況である旨の相談が寄せられている。
 このような状況であるにもかかわらず、さらなる生活苦を引き起こしかねないインボイス制度の導入は到底容認できるものではない。

3.破産後の生活再建の妨げになること
 消費税は収支が赤字であったとしても支払わなければならない税目であるため、滞納額も多く、令和3年度では滞納額8857億円中3551億円が消費税である。また、消費税は非免責債権であるため、自己破産をしたとしても、免責されずに債務が残ることになる。

 日本弁護士連合会の令和2年の調査によれば、自己破産をした者の16.13%が事業資金の借入れを理由に破産をしている。上記の滞納額から考えると事業資金が足りなくなった事業者の消費税の滞納率の高さも想像するに難くない。
 これまで課税事業者でなかった者に消費税の納税義務を課すことになるインボイス制度は、必然的に免責されない消費税を負わせることになるため、破産後の生活再建の妨げになることは大いに斟酌すべき事情である。

4.まとめ
 以上のことから、インボイス制度は、市民の生活に大きな打撃を与えるおそれがある制度であると言わざるを得ない。よって、当協議会はインボイス制度の廃止を求める。

〔1〕 「個人事業主・フリーランスの実態に関する調査 報告書」株式会社三菱総合研究所(令和元年度産業経済研究委託事業)https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000636.pdf