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意見書・会長声明等

不当誘致行為に対する会長声明

2025.02.27
意見書・声明文

不当誘致行為に対する会長声明

                        2025年 2月27日
                        全国青年司法書士協議会
                           会長 坂田 亮平

 全国青年司法書士協議会(以下「当協議会」という。)は、全国の青年司法書士約2,200名で構成され、「市民の権利擁護及び法制度の発展に努め、もって社会正義の実現に寄与すること」を目的とする団体である。

 当協議会は、司法書士報酬に関して消費者がネット銀行を提訴した民事訴訟事件において、不当誘致行為等の司法書士法施行規則・司法書士行為規範違反が強く疑われる事実認定が行われたことを憂慮し、キックバック、システム利用料、復代理方式等のあらゆる形態の不当誘致行為を非難し、根絶すべく会長声明を発する。
 
 司法書士法施行規則第26条において「司法書士は、不当な手段によつて依頼を誘致するような行為をしてはならない。」とされている。また、司法書士行為規範第12条第2項において「司法書士は、依頼者の紹介を受けたことについて、いかなる名目によるかを問わず、その対価を支払ってはならない。」とされている。こうした規定が存在するのは、司法書士の公正な競争取引を確保するためであり、また、依頼者の司法書士選択の自由を保障するためである。また、こうした規定の存在により、事件紹介者等との間で支配隷属関係になることを防ぎ、司法書士の独立性が保たれることによって、実体関係に即し真実に合致した登記が行われることが保障されていると言える。

 現在、ネット銀行の住宅ローン利用者が原告となり、住宅ローンの抵当権設定登記における銀行による司法書士指定条項が原因で、司法書士報酬について過分な費用を支払わされる消費者被害を受けたとして、ネット銀行を被告とする損害賠償請求事件(以下「本件民事訴訟事件」という。)を提訴しており、現在も係属中である(第一審福岡地方裁判所令和5年(ワ)第403号、控訴審福岡高等裁判所令和6年(ネ)第424号、発出日現在上告受理申立中。)。

 本件民事訴訟事件の令和6年4月24日付第一審地裁判決(以下、「地裁判決」という)によれば、裁判所により下記の事実認定がなされている。
 ①ネット銀行から抵当権設定登記等の手続を受任した司法書士法人Aは、金融機関から委任を受けた登記業務を他の司法書士(法人)に復委任していた。この復委任に係る業務委託契約書においては、復委任を受けた司法書士(法人)が顧客から受領した報酬金額のうち2万3,000円(税別)を司法書士法人Aの報酬として分配を受けること、司法書士法人Aは、復委任した司法書士に対し業務委託報酬として5,000円(税別)を支払うこと等が合意されていた。また、当該業務委託契約書においては、機密保持についても合意されており、復委任を受けた司法書士が顧客に対して司法書士報酬を請求するに当たっては、その内訳に司法書士法人Aが分配を受ける報酬分があることを明示する必要はないこととされていた。
 ②司法書士法人Bは、ネット銀行と原告との間の住宅ローン契約に係る抵当権設定登記等の手続を司法書士法人Aから復委任されたものであるが、復委任を受けた司法書士法人Bは、原告に対する手続費用の請求書の中で、報酬の中に司法書士法人Aに係る報酬分が含まれていることを明らかにしておらず、また、原告は、司法書士法人Bが司法書士法人Aから復委任を受けたものであることを承知していなかった。

 これらの事実は令和7年1月24日付福岡高等裁判所判決(以下「高裁判決」という)においても維持されている。

 上記認定事実は、一見、復代理の外形を整えているが、顕名・報酬受領のあり方から本来的な復代理とは異なり、その実質は、司法書士法人Bが司法書士法人Aから登記事件の紹介を受け、その対価として前記の金2万3,000円を司法書士法人Aに支払っていると評価されておかしくない状況であり、司法書士法施行規則第26条・当時の司法書士倫理第13条第2項(※現在の司法書士行為規範第12条に該当する規程)に違反していることが疑われる。この点、地裁判決においても、「被告が直接本件司法書士法人(※司法書士法人B)に委任していれば発生しない費用が原告に請求されていたことになる」「本件司法書士指定は、その意図・目的の正当性について疑義がないとまではいえない」と指摘されている。

 また、日本司法書士会連合会(以下、「連合会」という)は、令和2年8月12日、司法書士会からの照会に対し、民間事業者に対して司法書士から支払われるシステム利用料が、司法書士が受託する業務に応じて支払われるものであるならば、その司法書士の行為は、司法書士法施行規則第26条及び、当時の司法書士倫理第13条第2項に抵触する旨の回答をしている。同様に連合会は、令和6年6月6日、司法書士会からの照会に対し、別の民間事業者と提携した司法書士が、当該民間事業者と業務委託契約を締結し、本件会社が集客した依頼者の紹介を受け、その対価として、業務委託料等を本件会社に支払うのであれば、当該司法書士の行為は、司法書士法施行規則第26条、司法書士行為規範第12条等に抵触するものと考えるとの回答を行っている。

 このように、結局は「業務紹介の対価」であるにも関わらず、上記規範の潜脱を民間事業者・司法書士が繰り返している状況が窺える。こうした状況では、司法書士の公正な競争取引が確保され、また、依頼者の司法書士選択の自由が保障できているとは言えず、結果として司法書士の独立性も損なわれている。また、本件民事訴訟事件における原告主張のように「紹介料」相当額が登記業務の顧客に知らされずに転嫁されている恐れすらあり、訴訟案件は氷山の一角で、これまでに完了した相当数の事件において転嫁されているとすれば、今後、大きな消費者事件にもなりかねない。最も非難されるべきはこうした非違行為を平然と行う司法書士であるが、もはやそれらの司法書士事務所に自浄能力は期待できず、業界全体として非違行為を根絶するための取り組みを行う必要がある。

 連合会は、司法書士法改正大綱の中でも「非司法書士行為の取締り(周旋禁止と非司法書士との提携の禁止等)について」項目の新設を目標として掲げるなど、問題解決に向けた取り組みも行っているものの、司法書士業界内に不当誘致行為が蔓延している現状を鑑みると、あらゆる不当誘致行為について各司法書士会と連携して調査を行い指導・監督を十分に行うなど、喫緊の課題としてこれまで以上に対応にあたる必要がある。

 当協議会としては、司法書士の独立性を維持するために不当誘致行為が許されないことを業界内外に積極的に周知することをはじめ、不動産事業者団体・銀行団体等との意見交換や情報交換、司法書士に対する啓発活動を通じて、市民のために、あらゆる不当誘致行為を根絶していく活動を続ける所存である。