辺野古新基地建設に係る沖縄島南部からの土砂採取計画の撤回を 求める意見書
2021年7月30日
全国青年司法書士協議会
会長 阿部健太郎
意見の趣旨
辺野古新基地建設に係る沖縄島南部からの土砂採取計画の撤回を求める。
意見の理由
1 前提事実
2020年4月21日、沖縄防衛局は、普天間飛行場の代替施設の建設予定地に軟弱地盤が見つかったことから、普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立変更承認申請を行い、埋立てに用いる土砂等の採取地に当初の予定にない沖縄本島南部の糸満・八重瀬地区を追加した。
太平洋戦争末期、沖縄は本土決戦のための捨て石とされ、その犠牲者は20万人以上にのぼると推計されている。特に沖縄島南部地域は、那覇、首里、沖縄島中南部からの避難民の南下と敗走する軍の動きが合わさり、軍民入り乱れた激しい地上戦が展開された地域である。同地域では、軍による住民の殺害や食糧の強奪、住民が集団自決を余儀なくされるという悲惨な事態も発生し、今もなお戦没者の遺骨や遺品が数多く発見されている。
2 戦没者の遺骨収集の推進に関する法律
沖縄県子ども生活福祉部保護・援護課が発表している市町村別の遺骨収集状況のデータによれば、沖縄島南部の糸満市において収集された戦没者の遺骨の数は、遺骨収集事業の開始時から一貫して突出したものである。
国の行為によって命を奪われた人々の遺骨や遺品を遺族の下に返すことは国の責務であり、本件土砂採取計画は、戦没者の遺骨の収集を国の責務とし、2016年度から2024年度までを遺骨の収集の推進に関する施策の集中実施期間と定めた「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」に基づく基本的計画に反するものである。
本件土砂採取計画については、遺骨収集ボランティア団体等から風化して一部が土に混ざった遺骨と土砂を分離して土砂のみを採取することは技術的に困難であること及び採取された土砂に遺骨が混入する可能性が高いこと等、様々な問題点が指摘されている。これに対し、政府は民間の採石業者との契約時に遺骨の取り扱いを明記することで、採石業者による対応が見込まれることを理由に変更計画に基づいて新基地建設工事を強行する姿勢だが、戦没者の遺骨の収集が国の責務とされていることの認識が欠けており、過去の戦争への改悛が無いと言わざるを得ず、到底容認することはできない。
3 人格権侵害
人には、自分が死亡した後の身体の処遇に関して、その意思に反した取り扱いがなされないことへの期待がある。「臓器の移植に関する法律」及び「医学及び歯学の教育ための献体に関する法律」において死者の意思の尊重が謳われているように、死者の意思は幸福追求権の一環として尊重されるべきである。そして、戦争によって命を奪われた人が、自己の死亡後、遺骨が新たな軍事基地の建設に使われるなどということは、絶対に望むはずがない。
戦没者の遺族が故人の意思を尊重して弔うことや、戦没者遺族の故人に対する敬愛追慕の情は、法的に保護されるべき人格権であり、不法行為における被侵害利益性を有するのみならず、憲法13条及び20条により保障される基本的人権としての宗教的人格権と位置付けることも可能である。したがって、政府の行為によって命を奪われた人々の骨が混じり、血や肉が染み込んだ土地から採取した土砂を戦争遂行のための軍事基地建設のために海中に投入することは、命の尊厳を埋立てるがごとき暴挙であり、戦没者遺族の人格権を侵害するものである。
また、遺骨が刑法第190条の死体損壊等の客体とされ、この罪が国民の広い意味での宗教感情を保護法益としていることからも、過去の戦争の悲惨さを鑑みれば、戦没者の遺骨を損壊するに等しい行為は、国民一般の戦没者への敬虔感情を踏みにじるものである。
4 結語
以上の理由から、当協議会は、国に対して、沖縄島南部からの土砂採取計画の撤回を求める。
以上