民法の成年年齢引下げに関する会長声明
2022年4月1日
全国青年司法書士協議会
会長 内田 雅之
本日、民法における成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号。以下、「本法律」という。)が施行された。
本法律は、わが国の憲法改正国民投票の投票権年齢や公職選挙法の選挙権年齢などが18歳と定められ、また、世界各国においても成年年齢を18歳と定めることが主流となっていることなどを背景として成立した。
本法律の成立に際しては、各関係団体から、特に18歳・19歳を対象としたマルチ商法等による消費者被害の増加や養育費支払期限についての疑義など、様々な課題も指摘されていたところであり、参議院法務委員会においては、①知識・経験・判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して、事業者が消費者を勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)を創設すること、②消費者契約法第三条第一項第二号の事業者の情報提供における考慮要素については、考慮要素と提供すべき情報の内容との関係性を明らかにした上で、年齢、生活の状況及び財産の状況についても要素とすること、③特定商取引法の対象となる連鎖販売取引及び訪問販売について、消費者委員会の提言を踏まえ、若年成人の判断力の不足に乗じて契約を締結させる行為を行政処分の対象とすること、又は、同行為が現行の規定でも行政処分の対象となる場合はこれを明確にするために必要な改正を行うこと、④前各号に掲げるもののほか、若年者の消費者被害を防止し、救済を図るための必要な法整備を行うことを本法律成立日から2年以内に必要な措置を求めるとともに、若年者のマルチ商法等による消費者被害についての対策、消費者教育の充実、成年年齢引下げに伴う若年消費者被害防止のための国民キャンペーン実施の検討などについて、各別の配慮を求める附帯決議がなされている。
しかしながら、消費者契約法の改正において不安をあおる告知に関する取消権の創設など一応の手当てはなされているものの、つけ込み型不当勧誘取消権の創設は実現しておらず、国民に対する消費者被害拡大防止のための周知も十分になされてきたとはいえない状況である。
未成年者は、いわゆる「未成年者取消権」の存在によって、金融リテラシーの未発達あるいは十分とはいえない法知識につけ込まれることなどによる不当誘致や、意図せず締結した契約による被害からの回復が図られてきた事実があり、その対象者が本法律の施行により狭まることによって、今までは守られてきた18歳、19歳の若年者が様々な消費者被害に巻き込まれうることになる。
一例を挙げると、貸金業者が本法律の施行に乗じて本人の意図しない貸付けや返済能力を超えた過剰融資を行った結果として、若年者の生活に重大な支障を来す危険性が極めて高くなるものと考えられる。
また、18歳、19歳の若年者が、自分たちの意に沿わない、もしくはすでに意欲を失っている状態であるにも関わらず、「未成年者取消権」を行使できないことによって、アダルトビデオの出演やその他性風俗産業等への強制的な就労も懸念されることから、業界における抑制的な対応がなされるか否かも含めて、当事者の心身に取り返しのつかない傷を負わせることがないように、今後の動向を注視していく必要がある。
さらに、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、若年層における経済的環境が悪化するばかりでなく、人的交流が抑制され他者とのつながりが制限されている状況下で、若年者を対象としたデジタルコンテンツやインターネットを利用した商品購入トラブル、SNSなどを通じた性暴力被害、あるいは悪質商法やカルト宗教への勧誘などの影響を受けやすくなるという悪循環が懸念されるところである。
そのほかにも、離婚後の養育費の支払期間を20歳までとするのが一般的であったところ、本法律の改正にともない、すでになされた養育費の取り決めは18歳に読み替えられることなく従前どおりの効力を有するものと解されるものの、新たに養育費を定める際に支払期間を18歳までとする合意がされることにより、子の進路の選択肢を狭める恐れや、経済的に困窮する家庭が増える可能性も否めない。
当協議会は、これらの状況を踏まえ、本日、本法律が施行されるに際し、国に対し、つけ込み型不当勧誘取消権をはじめ、消費者被害防止のための法整備を早期に実現すること、義務教育の段階から消費者教育の機会を増やすなど、さらなる消費者教育の充実を図ることを求めるとともに、成年となる者に不利益を及ぼすことがないよう、次のとおり、当協議会として活動していくことを表明する。
1 成年年齢の引下げにより、ひとり親世帯における若年者の生活や教育を受ける機会が損なわれないよう、養育費無料電話相談会などを通じて、養育費が適正に定められ、その支払いが確実に履行されるための支援を行う。
また、未成年後見終了後などで成年となった後も支援を必要とする若年者に対して、必要に応じて財産管理業務などを利用してその相談窓口となり、適切な生計基盤の形成を支援する。
2 若年層における消費者トラブルを防止するため、SNSなども活用した無料相談会を積極的に実施するとともに、消費者センターや教育機関など各関係団体とも連携を図る。
同様に、若年層における労働契約の締結や賃金の支払等における労働問題に関する支援も行っていく。
3 われわれ青年司法書士が、暮らしの法律家として法教育活動に積極的に関与することにより、消費者教育の一翼を担い、若年層が消費者として主体的に判断し責任を持って行動できるよう支援する。
なお、当協議会は、従前より、養育費に関する無料電話相談などを通じて、適正な養育費を受給できずに苦しんでいる方々に対する法的手続等の支援に取り組んできたほか、中高生を対象とした法教育事業を行い、成年となる者が実社会で生活する上での指針になるべく活動してきた。
当協議会は、本法律の改正により18歳を成年として迎える若年者たち一人一人が、自ら主体的に判断して、様々な経験をしつつ、希望あふれる未来に「つながりつづける」ことができる自由かつ公正な社会が実現されることに全力を尽くし、若年層の声に耳を傾け、引き続き、その権利擁護のため一層の研鑽を重ねていく所存である。
~ 成人となる皆さんへ ~
これまでは成人となる年齢は20歳とされていましたが、今日から、18歳で成人を迎えることになりました。
これから成人を迎える皆さんは、日々の生活の中、自分で考えて決断し、行動できることが広がる一方で、当然ながらその行動には責任も生じることになります。
あなただけではなく、あなたと関わる人や社会にも影響を与えることで、あなたの人生の可能性は大きく広がるとともに、自分だけでは解決できないことも増えてくるでしょう。
そのようなとき、一人で抱え込むのではなく、ご家族をはじめ、友人、職場の同僚、学校の先生など周囲に相談することで道が拓けることもあるかと思います。
そして、私たち司法書士も、あなたを対等な一人の大人として、できる限りあなたに寄り添い、あなたにとってより良い選択ができるよう一緒に考え続けていきます。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、直接、人と会って、会話をする機会が減っていますが、このような状況だからこそ、人と人との「つながり」を大切にしてほしいと考えます。
成人となることが、さらに人との「つながり」を深めるきっかけとなり、あなたの未来が希望にあふれるものであることを心から願っています。