新型コロナウイルス感染症対策には「緊急事態宣言」と権利制限ではなく、生活困窮する市民の生活と事業者の生業を守るための手厚い政策を求める会長声明
2020年3月26日
全国青年司法書士協議会
会長 半田久之
1.はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID−19)は、世界各地に猛威を振るい、各国政府は様々な対策を余儀なくされている。報道によれば、日本国内においても国内感染者数は2019人を超え55人が亡くなるなど(3月25日午後11時現在)、今後も感染が拡大していくと考えられる。
これを受けて政府は、2月26日以降、大規模なイベント等の中止、延期又は規模縮小や、全国の小中学校、高校、特別支援学校の臨時休校を要請した。この要請により、実際にイベント等の中止が相次ぎ経済活動に大きな混乱が生じている。事前の準備もない一斉休校により、多くの保護者は、子どもたちの居場所確保のために、仕事を休むことを余儀なくされた。
新型コロナウイルス感染症の影響は、まだ収束が見えず、市民や事業者は、大きな不安を覚えると共に、経済的に深刻な状況に陥っている。
2.改正新型インフルエンザ等対策特別措置法
このような状況で多くの市民や事業者が不安を感じている中、安倍内閣総理大臣は野党5党の党首らに対し、新型コロナウイルス感染症のさらなる感染拡大に備え「緊急事態宣言」を可能にする、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という)の改正法案の早期成立を呼びかけ、3月13日、多くの附帯決議が付されながらも、改正特措法が成立、翌14日に施行された。
この法律により内閣総理大臣が行う「緊急事態宣言」(第32条1項)は、2年と長い期間設定が可能であり、更に1年の延長も可能であるが、国会による事前ないし事後の承認も不要とされ、国会の民主的コントロールが及ばない。また、緊急事態宣言された区域のある市町村の属する都道府県知事は、住民に対し外出しないこと等の要請を行うことができ(第45条第1項)、さらに学校や集会場などの施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者に対し、施設の使用や催物の開催の制限、停止などを要請できる(第45条第2項)。これらは権利制限が「必要最小限」(第5条)を超え、過剰な制限がされれば、移動の自由(憲法22条1項)や、集会・表現の自由(同21条1項)など憲法が保障する基本的人権を侵害することになる。
なお、報道の自由との関係において、国会審議で、安倍内閣総理大臣は、特措法に基づき緊急事態宣言が出されても、民放の報道内容は「特措法による総合調整や指示の対象にはならないと改めて明確にする」と述べた。緊急事態宣言を理由に民放の報道内容に介入し、報道の自由ひいては国民の知る権利を脅かそうとする行為は、断じて許されないと肝に銘じるべきである。
当協議会は、このような問題点のある「緊急事態宣言」とそれに基づく権利制限に深い懸念を抱いている。
3.市民や事業者を守るための経済政策を求める
当協議会は、労働トラブル110番や生活保護110番などの相談事業や、生活再建支援のための事業を行うなど、生活困窮者のための支援を継続的に実施している。既に、当協議会が行っている常設電話相談「全青司ホットライン」や「生活保護専門ダイヤル」には現実に休業等が原因で生活困窮に陥っている切実な声が寄せられている。また、3月15日に開催された「緊急生活保護ホットライン」(主催:ホームレス総合相談ネットワーク及び困窮者支援に関わる弁護士、司法書士)には、今日明日の生活や借金返済への不安を抱える多くの市民・事業者から悲痛な相談が多数寄せられた。
今求められているのは、新型コロナウイルス感染症による経済の急激な悪化等により困窮状態に陥っている市民の生活と事業者の生業を守るための手厚い政策である。
政府は、一斉休校を要請した責任から、労働者が日額8330円を上限に賃金の全額を受け取れるよう企業に助成金を出し、フリーランスや自営業に日額4100円の休業補償を行うとしている。しかし、4100円という金額は少なすぎ、金額を見直すべきであり、また、会社への補助金が従業員に支給されるとは限らず、労働者が直接申請できる制度に変えるべきである。何より、これらは、子どもの世話をするために仕事を休んだ場合に限定されており、支給範囲が狭すぎる。もっと対象を広げ、新型コロナウイルス感染症の影響による賃⾦や収入の減少全般に適⽤するようにすべきである。この他にも、生活保護の受給要件緩和など、政府は市民生活の安定に全力を挙げて取り組むことを求める。
4.結語
よって、新型コロナウイルス感染症対策のためには、「緊急事態宣言」とそれに基づく権利制限ではなく、生活困窮する市民の生活と事業者の生業を守るための手厚い政策を求めるものである。
以上