司法書士による無料電話相談はこちら

意見書・会長声明等

戸籍制度を再考する会長声明

2024.12.24
会長声明

戸籍制度を再考する会長声明

全国青年司法書士協議会
会長 坂 田 亮 平

 2024年3月1日、改正戸籍法の施行により、戸籍届出時における戸籍証明書等の添付負担の軽減や、本籍地以外の市区町村窓口でも戸籍証明書等が請求できるようになった。また、2023年6月改正により、戸籍の氏名に振り仮名を記載できることとなった(施行は2025年5月26日の予定)。しかし、これらは利便性等に関する改正であって、戸籍制度の本質に関わるような改正ではない。
 私たち司法書士は相続手続等その業務の中で、依頼者から戸籍証明書等を預かり、また依頼を受けて戸籍証明書等の職務上請求を行うなど、これまで長年に亘って戸籍証明書等に数多く触れてきた。それを踏まえて、当協議会は、以下の観点より、時代の流れに沿うよう戸籍制度の再考が必要だと考える。

1.個人情報保護(あるいはプライバシー保護)の観点
 戸籍証明書等には、婚姻・離婚・養子縁組・離縁等多くの個人情報が記載されている。例えば、相続登記の申請には、添付書類として、被相続人の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書及び相続人の戸籍全部(一部)事項証明書が必要である。そのため、現在の家族単位(親と未婚の子を一つの戸籍として編成している形式)での戸籍編成では、本来不要であるはずの情報(例えば、ある親族が婚姻と離婚を繰り返している、養子縁組を行ったが解消したなど)が記載されている戸籍証明書等を取得せざるを得ない。これは、個人情報保護あるいはプライバシー保護の観点から非常に問題がある。
 特に、現在の日本社会は少子化が進み、相続人が兄弟姉妹あるいは甥や姪というケースが増えてきている。この場合、相続人が配偶者と子のみであるときよりも多くの戸籍証明書等を取得することとなり、相続登記には必要のない大量の個人情報が開示されているのが現状である。

2.選択的夫婦別氏の観点
 民法第750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と規定し、戸籍法第74条1項は、婚姻届にその夫婦が称する氏を届け出なければならないと規定する。これらの規定により、夫婦が称する氏を定めない限り、すなわち、どちらかが氏を変えない限り、婚姻届が受理されない。
 このように夫婦同氏を強制している国は日本だけである。また、どちらの氏を選ぶかは本来自由であるにもかかわらず、いまだに95%の夫婦が夫の氏を選択しており、日本の夫婦同氏制はほぼ夫の氏を称する制度になっている。そして、改氏することとなった妻は、それまでの氏を変えることによるアイデンティティの喪失、各種変更届出等の事務手続き上の負担、キャリアの分断という職業生活上の不利益などを受けなければならない。
 国は、1991年に婚姻制度の見直しを開始し、1996年、法制審議会が選択的夫婦別氏制度の導入を含む「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申し、これを受けて法務省から改正法案の準備がなされたが(1996年及び2010年)、保守派の反対により国会に提出されないまま、現在に至っている。
 国民の間では、1970年代ごろから選択的夫婦別氏制度導入への機運が高まり始め、1990年代には全国各地で選択的夫婦別氏を求める運動が活発化した。国が足踏みをする中でも選択的夫婦別氏を求める声は高まり続け、2024年6月18日には、一般社団法人 日本経済団体連合会が選択的夫婦別氏制度の早期実現を求める提言を発表するに至った。それほど、現状が深刻だということである。
 また、それまでの氏を変えることによるアイデンティティの喪失がいまだに軽視されていることも、重大な問題である。今こそ、選択的夫婦別氏を認めるよう民法及び戸籍法を改正すべき時である。
 選択的夫婦別氏制度を導入する場合、現行の戸籍制度では全員が同じ氏であることを前提とされているため、現行の形式はそのまま維持できないことになる。また、1996年民法改正案要綱答申時に予定されていた別氏同戸籍案も一つのあり方ではあるが、同案でも夫または妻のいずれかが先に記載されることになり、戸籍上に先後が生まれ、夫婦の公平性に欠けることになるという問題が生じる。

3.無戸籍問題の観点
 無戸籍問題とは、戸籍という社会的な基盤が与えられないために、社会生活上の不利益を受けるという重大な問題である。そして、無戸籍により、人生の選択肢が極端に限られてしまうことは、まさに人権問題そのものである。しかし、無戸籍者とその母親等が周囲との接触を避けざるを得ないなどの事情から、社会では問題が知られておらず、十分な支援を受けられていない現状がある。
 無戸籍者が発生する主たる要因として、婚姻解消(取消し)後300日以内に生まれた子は、前夫との間の子ではない場合でも、前夫との間の子と推定され(改正前民法第772条2項)、前夫の戸籍に入れられてしまうことをおそれ、出生届を提出しないことがあった(いわゆる「300日問題」)。
 この問題の解消のため、民法が改正され(2022年12月改正、2024年4月施行)、再婚をしていれば婚姻解消(取消し)から300日を経ずに生まれた子でも、新しい夫の子であると推定されることになった。しかしながら、離婚できないまま、夫と別居後に別の男性との子を出産したため、戸籍上の夫の子と推定されることを避けるべく出生届を提出しないケースも多く、依然として無戸籍者が発生する余地が残っている。
 無戸籍問題の抜本的な解決策として、嫡出推定の規定の更なる見直しは必須であるが、この規定を見直したとしても、戦前の非嫡出子のように子だけの戸籍を例外的に作成するのか、それとも家族単位の戸籍編成を維持するのか、子の戸籍がどこに作成されるべきかの問題が残る。しかし、後者を取る場合、DV加害者である戸籍上の夫に出生があったことを知られる可能性がある。

4.婚外子問題の観点
 明治政府は、戸籍制度を設け、家制度を創設した。戸主権は、家督相続により相続されるとし、その順位は、戸籍の続柄欄の記載で明らかにされた。相続の順位を、「嫡出男」「庶子男」「嫡出女」「庶子女」「私生子男」「私生子女」とし、男性は女性に優先し、兄弟間は長幼により順位を定め、家父長制度の礎とした。婚内子と婚外子の区別は、婚外子に不利益を課し、差別意識を植え付けることで、家制度を前提とする社会秩序を守ることを目的としており、婚外子差別は明治政府が戸籍を作ることで生み出したと言える。なお、1942年に、「私生子」「庶子」を「非嫡出子」とし、続柄欄を「男(女)」とする改正がされたが、差別は解消されなかった。
 戦後になり、日本国憲法に法の下の平等が規定された。しかし、戸籍だけでなく、民法、税制、福祉政策、出生届の手続き等においても、婚外子を劣後させ、不利益を課すという差別的取り扱いが残った。例えば、婚外子は婚内子の相続分の2分の1とする相続分差別は、2013年9月4日最高裁大法廷決定が出るまで続いた。
 戸籍における差別も残ったままである。続柄欄は、戦後も、婚内子は「長男(女)」、婚外子は「男(女)」と区別され、認知されないと父は空欄のままということもあり、婚内子と婚外子は明確に区別された。そして、1976年の戸籍法改正まで、戸籍は公開され、誰でも自由に閲覧することができたため、婚姻相手を調査することに利用されるなど、戸籍に起因する差別は実社会に大きな影響を与え、差別意識が払拭されることはなかった。続柄の記載については、2004年に、婚外子は、母との関係で「長男(女)」「二男(女)」と記載されることとなった。しかし、そもそも続柄は、家督相続における序列を表すために必要だったものであり、家督相続が廃止された現在においては必要ない。
 また、子の戸籍記載のもとになる出生届についても、差別的取り扱いがなされている。出生届には、「嫡出子」「嫡出でない子」のチェック欄があり、婚外子の場合は、母に対し、自らの子が、正統でない子であることの自認を強要しているのである。
 以上のように、婚外子差別は、法の下の平等を定めた日本国憲法施行後も、根強く残っている。
 そして戸籍には現在もまだ、家父長制度の序列に基づく、嫡出・非嫡出の区別および、続柄欄が残っている。このような制度が残っているからこそ、父母が揃った戸籍にいる婚内子が正統であり、父母の一方しか戸籍にいない、または父が空欄の子は、正統ではない、まっとうな子ではないという偏見や差別意識が生み出されてしまうのである。

5.当協議会の考え
 当協議会は、現行の戸籍制度には上述したような問題があり、家族単位の戸籍編製には再考の余地があると考える。
 これまで重視されてきた、戸籍実務の効率や利便性・経済性も必要なことではあるが、今後はそれに加えて、個人の尊厳を重視した制度にしていく必要性がある。例えば、その方法としては、個人別登録制度(個人籍に出生・婚姻・推定相続人の情報等を掲載)を導入することや、手続きに必要な内容のみが記載された証明書を発行できるようにする(相続登記の際には相続人情報のみ掲載される)こと、続柄欄の廃止を含めた見直し、などが考えられる。
 当協議会としては、国民的議論が活発になされることを期待するとともに、国においても戸籍制度再考を検討するよう求める。
 そして、当協議会においてもそのための具体的制度提言などを行い、戸籍制度の更なる改善に貢献していく所存である。