「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」に関する意見書
2020年1月10日
全国青年司法書士協議会
会長 半田久之
「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」について、以下の通り意見を述べる。
1 11頁 第3章 第1節 6(1)オプトアウト規定における執行の強化 について
本大綱においては、平成27年改正において創設されたオプトアウト規定について一定の評価をするとともに、未だ届け出を行わずに個人データを第三者提供している事業者が存在する点や、届出を行っていても、その提供している個人データが不正の手段により取得されたものであるケースについて問題視し、必要な措置を講じていくことを定めている。そして、法の潜脱を防ぐため、今後も未届事業者の把握を継続的に行っていくと謳われている。
しかし、オプトアウト規定の実効性を確保するためには、未届事業者を把握し指導・勧告を行うのみでは足りず、改善のない事業者に対しては罰則を適用する必要がある。そうでなければ、未届事業者が蔓延し不当に個人情報を拡散された者が、取り返しのつかない損害を被るのみならず、法を遵守している届出事業者との公平性の確保という点でも問題がある。インターネット社会において、一度流出した個人情報の拡散スピードは、個人情報保護法(以下、「法」という。)制定時とは比べ物にならず、それによって個人情報を無断で提供された者が受ける被害は計り知れない。この点、本大綱第5節においてもペナルティの在り方について検討されているものの、未届事業者に対してペナルティを強化する内容の規制は特に検討されていない。未届で個人情報を第三者提供する者は、当該事業そのものが違法なのであり、法第83条に定める「その業務に関して取り扱った個人情報データベース等を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したとき」に該当するかは判然としないことからも、本規定とは別に、未届事業者に対する罰則規定を速やかに規定する必要がある。
2 12頁 第3章 第1節 6(2)オプトアウトの対象となる個人データの限定 について
現行法において、事業者は、要配慮個人情報を除き、法第23条第2項に定める個人情報保護委員会への届出等の一定の要件を満たせば、個人データを本人の同意なく第三者へ提供することが可能とされている。この規定により、個人が、自身のあずかり知らぬところで個人データを第三者提供され、それにより不測の損害を被っている現状を鑑みると、本大綱における、オプトアウトの対象となる個人データの範囲を限定するという方向性には一定の評価ができる。
この点、個人データの範囲を限定する方法としては、本大綱にある「不正の手段で名簿を取得し、かつ、提供者が不正の手段で取得していることを知り、又は容易に知り得るケース」等、その取得経緯を問題視し、それについて法の中で明文化するか、もしくは、個別具体的に個人データの内容に着目し、その範囲を限定する方法が考えられる。前者の方法による場合は、取得経緯さえ問題なければ、提供される個人データの内容は問題視されないのではないかとの懸念が残る。後者の方法は本大綱には記載がないため、検討されているのか判然としない。
当協議会は、中間整理に対するパブリックコメントにおいても意見を述べてきたが(2019年5月27日付「『個人情報保護法いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理』に関する意見書」)、過去に破産手続や個人再生といった法的手続を受け、官報に掲載された個人の経済的信用に関する重大な情報がオプトアウト規定による届出さえすれば第三者提供が可能となっている現状を非常に問題視している。2019年3月に発生した「破産者マップ」は、これらの方々に多大な被害と不安を与えた。当協議会で行っている電話相談には、引っ越しを考えている、就職活動に影響がでないか、など差別と偏見を受けることへの不安を訴える声が多数届いている。そして、その後もこれと同種のウェブサイトが出現しており、今なおこの問題は現在進行形で被害が出ている問題である。当協議会では、今次改正においては、この現状を必ず改めなければならないと考えている。
そこで、個人データの限定においては、取得経緯のみが問題視される規制とするべきではなく、個人データの内容に着目し、その範囲を個別具体的に限定する規制が検討されるべきである。特に、過去に破産手続や再生手続の開始決定等を受けたという破産者等の個人情報は、単にオプトアウト規定の適用除外個人データとするのみならず、「本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要する」情報としてその「取得」に制限がかかる「要配慮個人情報」(法第2条第3項)に含めるべきである。社会的差別を助長する情報の収集は認められてはならない。何が「要配慮個人情報」に該当するかについては、これも政令により定められているものであり、法改正による必要もないことから、早急に検討し、すみやかに「要配慮個人情報」に含めるべきである。
3 16頁 第3章 第2節 2 事業者の守るべき責務 適正な利用義務の明確化について
インターネットが普及し、それを利用する国民の技術向上等により、個人情報の取扱いについては、法制定時とは比べ物にならないほどに配慮が必要な社会となっていることを考えると、看過できないような方法による個人情報の利用を広く規制し、明文化することには、それらの不当な行為を抑制する一定の効果があると考える。
そして、本当にこれらの行為を規制するためには、前記同様、それらの行為に対してペナルティを明文化することが必要であり、併せて検討されたい。