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離婚後共同親権の導入に反対する会長声明を発出いたしました

2024.02.15

離婚後共同親権の導入に反対する会長声明

全国青年司法書士協議会
会長 荘原 直輝

 令和6年1月30日、法制審議会家族法制部会(以下、「部会」という。)において、「家族法制の見直しに関する要綱案」(以下、「本要綱案」という。)が、複数の委員からの反対票がある中、全会一致が慣行であるところ異例の多数決で取り纏められ、同年2月15日、法制審議会第199回会議において採択された。
 これを受け、特に離婚後共同親権の導入に以下の理由から反対する意見を述べる。
 なお、離婚後共同親権の導入以外の事項に対する当協議会の意見については、令和5年2月16日付「家族法制の見直しに関する中間試案に対する意見書」(末尾参照)のとおりである。

(1)子どもの利益や権利擁護の視点の欠落
 法務大臣の諮問第113号において「子の利益の確保等の観点から」との記載があるにもかかわらず、部会では、子どもの利益確保や子どもの立場を中心にした議論ではなく、親の立場を中心に議論が行われたように思われる。
 部会第8回会議で棚村委員が資料「子の養育の在り方に関する実証的調査アンケートの概要」を提出している。
 それによれば、未成年の間に両親の離婚・別居を経験した20代・30代では、離婚・別居前に父母が円満だったのは3割程度で、逆に「父母間の会話」があったと回答したのは約4割、喧嘩も約6割で見られ、暴言や暴力は2~3割程度あったと回答している。さらに、離婚・別居によって感じたこととして50.1%が「平穏・安全な生活」と回答し、離婚・別居によって感じなかったこととして、59.0%が「両親間の板挟み」、65.1%が「自分が対立原因になっていないかへの心配」と回答している。つまり、親の離婚・別居により、両親の葛藤から開放され、平穏安全な生活を取り戻している子どもが多いということである。
 そのような中、離婚後共同親権が導入されると、親権行使の場面で元夫婦が関与することで、高葛藤となる場面が増えることは容易に想定される。
 また、子どもの意見表明権の明記を見送ったことも問題である。子どもは人格を持つ人間であり、離婚によって最も影響を受ける主体と言える。子ども本人による意見表明の権利を保障する必要がある。その場合には、子どもへの適切な情報提供の仕組みや決定責任を子どもに負わせないための制度設計が不可欠である。

(2)DV被害者等の保護の観点の欠落
 我が国では男性から女性へのDVが多く見受けられる。離婚後共同親権が導入されると、DV被害を受けた親や子どもが、加害者である親から逃げることが難しくなる虞がある。
 協議離婚においては、第三者によるチェック機能が働かないこともあり、婚姻中の支配関係が選択に影響を及ぼし、真摯な合意に基づいた共同親権の選択がされるとは限らない。さらに、海外の事例を見ると、裁判上の離婚においても、DVや虐待について慎重なスクリーニングが行われる保証はない。そのため、部会でもDVの専門家である委員が離婚後共同親権に反対しており、当事者からも不安の声が挙がっている。
 DVや虐待が必ずしも適切に認定されていない現在の制度下においては、それらが安易に見過ごされ、離婚後共同親権が採用されるケースが発生する虞は充分にある。その場合、離婚後の子どもに関する諸手続きを進めるためにDV加害者と被害者が連絡を取る必要が生じ、DV被害者の親だけでなく、子どもの命すら脅かす危険が生じる

(3)単独親権行使の要件である「急迫の事情」の不明確さ
 単独で親権を行使する要件として、本要綱案第2の1(1)ウに「急迫の事情」が掲げられているが、何が急迫の事情に該当するか不明確である。DVやハラスメントを受けた親が避難のために子連れ別居をすることがあるが、それが「急迫の事情」に該当するかは判断が難しい。避難後に「急迫の事情」に該当するかを巡り訴訟提起が頻発する虞もある。そうなると、子連れ別居が紛争の火種になり得るため、避難への委縮効果が生まれ、命や身体を脅かすような事件を増やすことになるのではないかと危惧する。
 また、緊急の医療行為は「急迫の事情」に該当し得ると部会第34回会議では指摘があったものの、具体的にどのレベルの医療行為が該当するのかは基準が示されていない。令和5年9月1日に日本小児科学会等の医療4学会が法務大臣宛意見書にて懸念を表明している中で、医療現場においても混乱が予想され、適切な医療行為がされずに子どもの生命身体が侵害される危険もある。

(4)事実上、対等な立場による協議が不可能であること
我が国では、男女間のパワーバランスの不均衡が大きく、離婚に際して、金銭的に優位な親が、金銭を条件に自分に有利な内容で離婚や子どもをめぐる取決めを行うことは容易に想像ができる。また、共同親権行使の協議の際に、養育費義務者が、養育費の中断を交渉材料にすることも想定し得る。
 本要綱案第2の1(3)では、父母間の協議不調の場合に、家庭裁判所による特定事項に係る単独親権行使者の決定制度が設けられているが、すべての人が容易に司法にアクセスできるとはかぎらない。また、進学や就職、引越しや転校といった子どもにとって重要かつ極めてプライベートな事項が、紛争の対象として裁判所で審理されることが果たして子どもの利益に適っていると言えるだろうか。離婚後も子どものライフステージにおける重要な決定に際して起きる両親の葛藤や紛争に子どもを巻き込み続ける離婚後共同親権制度は、子どもの利益に反するものといえる。

 また、当協議会は、親の離婚後の子どもの養育について社会全体で責任を負い、子どもの利益に立脚する制度設計として、以下を提案する。

1 DVや虐待を躊躇なく的確に認定し、安全安心を第一義とする制度運用の徹底及び安全安心かつ真摯な協議を行う社会環境の整備や施策の実施
2 子どもが安心して相談や意見表明できる機関の整備
3 家庭裁判所における適切な調停、審判のための研修体制の強化、人員拡充及び大胆な予算措置の実施
4 全国各地における行政、医療、教育、福祉、配偶者暴力相談支援センター、家庭裁判所、弁護士会や司法書士会等の連携の強化
5 子育て、税制、社会保障施策、貧困、就労、教育等の総合施策として、省庁横断的な検討及び多職種による連携体制の構築と改善プログラムの策定

 上記の施策が着実に実行され、親の離婚後の子どもの養育について、安全安心が保障され、子どもの利益を第一に考える運用の下、当事者が互いに人格を尊重しあい、社会全体で子どもの成長を支えていくための制度的基盤と社会的理解が定着して初めて、離婚後共同親権の導入を議論するべきである。これらが実現しない段階での離婚後共同親権の議論は、子どもの利益に基づくものではなく、現時点での議論そのものが拙速であると考える。

 以上の理由から、当協議会は本要綱案にある離婚後共同親権の導入に反対する。

(参考資料)
 家族法制の見直しに関する中間試案に対する意見書
 https://x.gd/a2Ilj