意見書・声明文
- 2010年05月25日
- 改正貸金業法に関する内閣府令の改正案の意見書
金融庁総務企画局企画課信用制度参事官室 御中
私たち全国青年司法書士協議会は、全国の青年司法書士約3,100名で構成され、市民の権利擁護及び法制度の発展に努め、もって社会正義の実現に寄与することを目的とする団体であり、日頃より多重債務問題の抜本的解決に取り組み、多重債務被害の撲滅を目指して被害者救済活動をしている立場から、平成22年4月26日に公表された「改正貸金業法に関する内閣府令の改正(案)」(以下、「内閣府令案」という。)について、次のとおり意見を提出する。
第1 全体について
貸金業法施行規則(以下、「規則」という。)の内容は新たな多重債務者の発生を抑止し、貸金業者の内部統制を実現する観点から妥当なものである。しかしながら、完全施行後も現経過措置により、いわゆるみなし弁済規定による約定請求がなされることが可能となっている。これを踏まえ、現在の多重債務問題解決にも資する運用がなされるよう政令等を定めることを要望するものである。
第2 条文の内容若しくは運用上の問題と考える点について
1.個人の過剰貸付契約から除かれる契約について(規則第10条の21第5号、同第6号)
■ 意見の趣旨 ■
例え、資産の裏付けがあり、当該資産を担保とする貸付においても、その資産価値が変動するものである限り、「適用除外」とすることは妥当ではない。また「例外規定」としても、前記のとおり資産評価額は契約締結時よりも下落する可能性もあるものであるので、極度方式基本契約に係る貸付契約だけではなく、貸付日から弁済期までの期間が長期に設定されている貸付契約についても、一定期間毎の返済能力調査及び資産評価調査の義務を課すべきと考える。加えて当該調査により、資産評価額が当初貸付額を下回ることが明らかとなった場合、貸金業者は速やかに、契約者に対し、その旨を通知するなどし、担保評価額以上の負担を回避する措置または減ずるような措置を講じることの義務を課すべきと考える。資産の担保提供は安易な借入の誘因になると考えられるので、契約締結時における十分な説明義務を貸金業者側に課すことを要望する。
■ 意見の理由 ■
規則第10条の21第5号、同第6号は、有価証券担保貸付につき当該有価証券の時価の範囲内である貸付、不動産担保貸付につき当該不動産の価格の範囲内であって、当該個人顧客の返済能力を超えないと認められる貸付に限り、総量規制の例外から適用除外に移行するものであり、貸金業法の円滑な施行を図るための方策であることについては、一定の理解はできる。
しかしながら、貸金業者において、与信管理の観点から、不動産価格の変動の可能性等も踏まえつつ、個別具体的に貸付が可能な金額について判断されるとしても、その判断について具体的基準もないことや、予測できない担保価値の下落等により貸付額が担保価値を上回った場合、債務者は想定外の負担を被ることになる。
また、有価証券もしくは不動産を処分しても、顧客が同貸付に基づく債務を負担しなければならない場合、実際に有価証券もしくは不動産を処分されると、顧客は有価証券担保貸付若しくは不動産担保貸付以外の貸金債務と併せて返済しなければならない場合が想定されうる。貸金業者に対し、定期的な返済能力調査義務を課さなければ、顧客は返済能力を超える債務を負担しかねない。
よって、総量規制の本旨が「返済能力の範囲内での貸付けを実現すること」であることからすれば、有価証券担保貸付及び不動産担保貸付の契約が極度方式基本契約の場合は当然のこと、返済が長期に渡る貸付契約においても、貸金業者は定期的な返済能力調査をなすことが、前記本旨に適うものとなる。
2.個人顧客の利益の保護に支障を生ずることがない契約等について
(1)債務を既に負担している個人顧客が当該債務を弁済するために必要な資金の貸付に係る契約について(規則第10条の23第1項第1号の2)
■ 意見の趣旨 ■
総量規制に抵触している者の借入残高を段階的に減らしていくための借入の推進として、借り換え後の金利・返済方法等が借り換え前より負担とならないことを要件として、借り換えを推進しているが、貸金業法改正の目的を踏まえ、その実効性を確保するためにも、次の具体的基準を設けるべきである。
a 借り換えを行う貸金業者は、利息制限法制限利率に引き直しをされていない債務残高については、総量規制の例外とする借り換えを認めるべきではない。
b 借換え貸付契約を締結する際に、当該貸付の条件として、借り換えを行う貸金業者が、当該個人顧客から他の借入先である貸金業者が提出した取引履歴を受領し、各貸金業者の債務総額について引き直し計算を含む債権調査をしなければならない。その義務を怠った場合は、借り換えを行う貸金業者が個人顧客の被った損害を全額賠償する規定を設けるべきである。仮に、上記調査義務を課すのは適当ではないにしたとしても、当該個人顧客に対して利息制限法所定の利率での引き直し計算の可能性について十分な説明をなす義務を課すべきである。
c aの場合、当該個人顧客を専門の相談機関への誘導等を義務化すべきである。
■ 意見の理由 ■
引き直し計算を含む債権調査を行わずに、債務総額を確定し、借り換えが行われることになると、本来ならば借換えを必要としない債務者が不必要な債務を負担するケースが生じる可能性がある。また、借り換えの推進方策を悪用し、既存の貸付債権を違法な約定利息のままで回収し、過払金を返還しないまま貸金業を廃業し、過払金返還請求から逃れる業者が増えることも想定される。
したがって、利息制限法制限利率に引き直しをされていない債務残高については、総量規制の例外とする借り換えとを認めるべきではない。そして、その実効性の確保のために借り換えの要件として借入債務借入残高について取引履歴の提出を追加し、借り換えを行う貸金業者に対しては、利息制限法制限利率に引き直しをする調査義務を課すとともに、それを怠った場合、借り換えを行う貸金業者は、個人顧客に対し、当該顧客が被った損害を賠償する旨の規定を設ける必要がある。
なお、利息制限法を超過して貸付を行なってきた貸金業者は、自主的に利息制限法制限利率に引き直し計算をし、過払金が発生していれば自主的に過払金を返還することにより、前記のような問題が生ずることはないため、貴庁が貸金業者に対し、監督指導することを求める。
(2)緊急に必要と認められる医療費を支払うために必要な資金の貸付に係る契約について(規則第10条の23第2項)
■ 意見の趣旨 ■
返済可能性を厳格に認定する基準が必要である。つまり、本条において所得税法第73条第2項に規定する医療費とされており、当該医療費の支払いが困難である場合、生活経済においても困窮している可能性が高く、返済可能性が認められない場合は、公的機関への誘導を義務化すべきである(そもそも緊急の医療費について貸金業者を頼りにしなければならないとしたら、国家施策として問題である)。
■ 意見の理由 ■
そもそも高額医療費の一部負担部分でない、いわゆる通常の医療費(緊急であるにせよ)支払いについて、貸付に頼らなければならない状況というのは当該借入者における家計が破綻状態または破綻につながる状況が極めて高いと容易に推認できるものである。そのような状況のもとで、さらに高利といわれる利息の付された貸付けをなすことが個人顧客の利益の保護に支障を生ずることがない契約等にあたる貸付けとなるとは思われず、むしろ多重債務を防止するという本法の趣旨に合致しないものであると考える。
3.特定非営利金融法人(NPOバンク)について
■ 意見の趣旨 ■
特定非営利金融法人による生活困窮者への貸付に関する規定は全て削除し、収入をもって最低限度の生活を維持するために必要な費用及び債務の返済を賄うことができない状態の生活困窮者に対しては、国策として国が無利子で貸付を行う等の措置を講ずるべきである。
■ 意見の理由 ■
規則第1条の2の3以下において、特定非営利金融法人による生活困窮者支援貸付に関する規定が設けられており、ある一定の要件を満たすと生活困窮者に対し最高年利7.5%の利率をもって総量規制の適用を除外した貸付が可能となっている。また、規則第1条の2の6では、生活困窮者の定義を「収入(借入による収入を含む。)をもって最低限度の生活を維持するために必要な費用及び債務の返済を賄うことができない個人(当該費用に充てるべき資産を有しない者に限る。)」と定めている。
しかし、収入をもって最低限度の生活を維持するために必要な費用及び債務の返済を賄うことができない状態の債務者に、年利7.5%で総量規制の適用を除外した貸付を行うことが果たして経済再建の手助けになるのかどうか疑問である。破産法第1条には、破産手続開始原因として「支払不能」「債務超過」と定められているが、規則第1条の2の6で定義されている生活困窮者は、まさに破産手続きにおいて救済を行わなければならない債務者であり、また、生活保護法1条「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保証するとともに、その自立を助長することを目的とする」と定め、同法3条は「この法律により保護される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することが出来るものでなければならない」と定められているが、規則第1条の2の6で定義されている生活困窮者は、まさに生活保護によって最低限度の生活を保証しなければならない債務者ではなかろうか。
仮に何らかの理由で破産手続きを選択できない債務者がいたとしても、生活困窮者に対して非営利とはいえ、年7.5%の金利はあまりにも高い金利であり、経済再建の手助けになるとは到底考えられない。
よって、特定非営利金融法人による生活困窮者への貸付に関する規定は全て削除し、収入をもって最低限度の生活を維持するために必要な費用及び債務の返済を賄うことができない状態の生活困窮者に対しては、国策として国が無利子で貸付を行う等の措置を講ずるべきである。






