意見書・声明文

2010年01月28日
国土交通省「民間賃貸住宅対策」に対する意見書

国土交通省住宅局住宅総合整備課 御中

 私たち全国青年司法書士協議会(以下、「当協議会」と言う)は、全国の青年司法書士約3,000名で構成する「市民の権利擁護及び法制度の発展に努め、もって社会正義の実現に寄与すること」を目的とする団体である。

 今般、国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会民間住宅賃貸住宅部会から「最終とりまとめ」が提示され、民間賃貸住宅政策に対する意見募集がされているところであるが、当協議会は、賃借人の生活に大きな影響を及ぼすことが予想される家賃滞納の局面において、とくに問題と考えられる事項に絞って、借地借家法の趣旨に沿った賃借人保護の視点から、以下のとおり意見を表明する。


■ 意見の趣旨 ■

1.賃借人(入居希望者)の家賃滞納等の信用情報を入手し、提供できる仕組み(データベース化)を創設すべきではない。また、民間事業者が同様の仕組みを創設した場合、国としての規制の在り方を検討すべきである。

2.家賃債務保証業については、許可制を導入して参入規制をするとともに、違法な取立て及び追い出し等を禁止するため、厳格な行為規制を盛り込んだ業法を定めるべきである。また、業法やその他の法令に違反した業者には行政上及び刑事上の罰則を規定すべきである。

3.定期借家制度の普及・促進を無制限にすべきではない。


■ 意見の理由 ■

1.「賃借人(入居希望者)の家賃滞納等の信用情報を入手し、提供できる仕組み(以下「データベース化」と言う。)を創設すべきではない。また、民間事業者が同様の仕組みを創設した場合、国としての規制の在り方を検討すべきである。」について

 データベース化構想は、この仕組みにより排除されるおそれのある賃借人にとって、「安心して暮らすことができる」ことにはならないにもかかわらず、「最終とりまとめ」においては、「賃貸人が安心して民間賃貸住宅を市場に供給できる環境を整備するという観点からは有効な方法である」と結論している。

 しかし、データベース化構想は、社会的弱者の排除に結びつく可能性が高いという弊害がある。確信的に最初から家賃を滞納しようと考えている人は極めて稀でしかなく、実際には失業や病気等の事由により、やむなく家賃を滞納してしまう事例が多いのが実情であるところ、これらの個別の事情を勘案することなくデータベース化を整備すれば、単に家賃滞納の事実のみをもって、一律に家賃滞納者としてデータベースに登録され、その結果、現在の経済状況においてやむなく失業した労働者や生活保護受給者等の生活困窮者から安定した居住生活を一方的に奪うことにつながりかねない。このことは、最終とりまとめが目指している「賃借人全体の利益」とも真っ向から反していることは明らかである。

 また、最終とりまとめは、「データベースの整備に民間事業者が取り組むこと自体を禁止することはできない」と結論しているが、仮に国が直接に禁止することはできないにしても、家賃滞納等の情報がデータベース化されることによって居住の機会が不当に奪われることがないよう、その情報の収集、管理、利用等について国による規制の在り方を十分に検討していくべきである。

2.「家賃債務保証業については、許可制を導入して参入規制をするとともに、違法な取立て及び追い出し等を禁止するため、厳格な行為規制を盛り込んだ業法を定めるべきである。また、業法やその他の法令に違反した事業者には行政上及び刑事上の罰則を規定すべきである。」について
 
 昨今の経済情勢を反映して、失職や収入の減少などにより家賃を滞納したり、あるいは入居時に必要な敷金礼金を捻出できないなど、住居の確保に困難な方々が増えている。住居の確保が困難な方々を対象にして、敷金ゼロ、礼金ゼロをうたう「ゼロゼロ物件」や、委託を受けて連帯保証人になる家賃債務保証業務を行う事業者が現れた。それらの一部の事業者はいわゆる「貧困ビジネス」と呼ばれ、社会問題になっている。例えば、賃借人が家賃を一回でも滞納すると、生活の平穏や個人のプライバシーを侵害する方法により強引な取り立てをしたり、鍵を交換して賃借人の居住権を侵害したり、私財を無断で搬出して処分するなどの犯罪行為にまで及ぶ手法を用いる事業者まで現れている。これらの被害は、近畿を中心に各地で多発しており、追い出し屋被害救済のために、弁護士や司法書士が中心となって被害者の救済に動いている。また、近時、保証業者や管理業社に対し、「追い出し」行為を違法な行為として損害賠償を命じる判決も多数出されているが、これらの事業者は、訴えられなければ儲けものを言わんばかりに、「追い出し」行為を止めることはない。これは、それらの事業者に対し、規制する法律がないことが大きな原因である。まず、許可制、業務規制、契約効力規制を中心とした法規制を整え、法に違反した事業者には営業停止や登録取り消しなどの行政上の罰則はもちろん、行為に及んだ従業員が刑事罰に問われるだけではなく、事業者も刑事上の罰則受ける内容を盛り込んだ厳格な法規制をするべきである。

3.「定期借家制度の普及・促進を無制限にすべきではない。」について

 定期借家契約は契約で定めた期間の経過により、更新されることなく借家契約が終了する契約であるため、通常の建物賃貸借契約のように更新拒絶や解約の申し入れに対して、正当な事由を必要としない。そのため、長期間居住を希望する賃借人にとっては、定期借家契約を締結するメリットは少なく、賃借人にとって不利な契約になることが多い。国土交通省の平成19年3月の「定期借家制度実態調査」によれば、建物の借家契約総数のうち、定期借家契約の割合は、5%程度である。また、定期借家契約の実績のない事業者及び賃貸人に対する今後の活用意向についての回答のうち、「今後積極的に活用したい」と回答した事業主は2.5%、賃貸人は4.0%であるのに対し、「活用する意向がない」と回答した事業主は25.4%、賃貸人は33.2%である。そして、「場合によっては活用したい」と回答した事業主は72.1%、賃貸人は68.1%と最も多い。また、定期借家制度を活用したくない理由として、「賃借人にとって魅力が乏しく空家になる可能性がある」(事業主45.8%・賃貸人11.3%)や「普通借家契約に特段の不都合がない」(事業主44.4%・賃貸人32.3%)、「制度が煩雑で正確に理解するのが難しい」(事業主21.6%・賃貸人41.9%)などの回答が目立った。
 
 上記のとおり、定期借家制度は、現在の日本の賃貸市場において定着していない。事業主及び賃貸人は、定期借家契約に関して、「場合によっては活用したい」との回答が多くを占めるように、限定的に利用するものという認識を有していると考えられる。そのような実情のなかで、国があえて積極的に定期借家制度の普及・促進を進める必要性があるのかは疑問である。

 また、普通借家制度における「正当事由」が賃貸人による不当な解約申し入れから賃借人を保護するための制度であるのに対し、定期借家制度は、「正当事由」が要求されることへの弊害から賃貸人を守るための制度である。つまり、賃借人にとってより不利な契約である定期借家制度を普及・促進させることは、賃借人の生活の中心となる住居の安定性を甚だ害することにも繋がる。更に、現在では定期借家制度を悪用する事業者も現れている。現在のような経済状況の中で、職と同時に住居を失う「ハウジングプア」という者達が増大しており、更に被害を増大させる可能性がある定期借家制度の推進を図るべきではない。

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